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Comic/illust
ASANE
漫画4p
漫画4p
漫画4p
漫画4p
シワスダ
漫画6p
漫画6p
漫画6p
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そますきあきら
漫画4p
漫画4p
漫画4p
タロー
漫画8p/イラスト1p
漫画8p/イラスト1p
漫画8p/イラスト1p
漫画8p/イラスト1p
TD
漫画10p
漫画10p
漫画10p
漫画10p
深谷澪
漫画8p
漫画8p
漫画8p
漫画8p
mEnow
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みっき
漫画4p
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みゆき朗
漫画6p
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漫画6p
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ろくろん
漫画10p
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漫画10p
ゆの字
漫画10p
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riza
イラスト1p
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novel
sarah
きみの恋人になりたい
――あぁ、どうしよう。 ガウンが肩からずり落ちたのを直しながら、いたたまれない気持ちをなんとかしたくてぼすんとベッドに身を預ける。瞬間、彼の匂いが色濃く香って眩暈がした。 これまで、わたしは数えきれないほどこの部屋を訪ねてきた。ヒュトロダエウスが一緒の日もあったし、わたしひとりの日もあった。美味しいものを一緒に食べようとか、ゲームをしようとか、ただなんとなく暇だからとか理由は色々あったけど、いつだって自分の家のように寛いで過ごしてきた。 それが、まさかこんなに緊張しなきゃいけない日が来るなんて――大丈夫かな。さっきシャワーを借りた時、身体は隅々まで点検したし、下着だってきちんとかわいいものを創造しておいた。お肌の保湿だって完璧なはずだけど。 「……ほんとに?」 ――わからない。不安だ。不安すぎる。準備不足かつ予習不足。勢い余ってとんでもないことを言ってしまった。 独り言を呟き頭を抱えながら、シャワールームへと視線を向ける。先程エメトセルクが吸い込まれて行ったそこからは、まだざあざあという水音が聞こえてきていた。このまま明日まで出てこないといいのにな、とか、目を閉じて眠っちゃおうか? とか、せっかく二人きりで過ごせる時間をふいにするなんて勿体無すぎる! とか、色んな考えが浮かんでは消えていくのを持て余して、近くにあったクッションを抱きしめながらごろごろとシーツの上を転がる。 覚悟なんて全くできていないのに、どうしてこんな状況になってしまったのか――話は二時間ほど前に遡る。 ◇◆◇◆ 今日は、わたしもエメトセルクも、カピトル議事堂の執務室に篭って、貯まった書類仕事を片付ける予定になっていた。普段アーモロートの外にいることが多いわたしと、何かと頼られては呼び出されることの多い彼が、二人揃って執務室に引き篭もるなんてとても珍しいことだ。山積みの書類さえ片付ければ、今夜は久しぶりに彼とゆっくりと過ごせるのではないか、という期待とやる気に満ち溢れてしまったのは致し方のないのことだろう。 仕事はとにかく順調だった。急な来客やトラブルに見舞われることもなく、集中してペンを走らせ、概ねデスクの上が片付いた頃時計をみると、午後六時を過ぎたところだった。 よし、帰ろう。今すぐエメトセルクを迎えにいって、一緒に美味しい夕飯を食べて――そうだ、この間発表された新しいイデアについて、朝まで論じてみたいな。弾む気持ちを隠しもしないで、ほんのちょっぴりスキップしながら廊下を駆け抜け、彼の執務室の前にたどり着く。 しかし、半開きのままになっていた扉にノックをしようとしたとき、事件は起きた。 (小説8p)
かぁめ
終わりの始まり
アーモロートの一角を、急ぎ足で歩む一人の男がいた。唯一無二の赤い仮面をつけたその男…エメトセルクは、穏やかに弁論を交わす人の波をすり抜けながら、医療の牽引者であるエメロロアルスの管理する医療施設へと向かっていた。そこに彼と同じく十四人委員会の座の一つを所有している存在が危機的な傷を負って担ぎ込まれたと聞いたからである。他でもない、エメトセルクの想い人である、アゼムその人だ。 十四人委員会の中で二人の関係を知らない者はいないという事もあり、エメトセルクは「面会謝絶」と記された病棟の最奥へと容易に辿りつくと、いささか乱暴に病室の扉を開けた。 「アゼム!!」 「やあ、偉大なるエメトセルク。来てくれたんだね」 気丈にも笑顔を作ってそう言ったアゼムの横たわるベッドに駆け寄ると、エメトセルクはその頬にそっと触れた。いつも彼女を抱きしめる時とは全く違う体温と肌の色。エメトセルクはアゼムの手を取って自分の掌を重ね合わせ、己のエーテルを流し込んだ。 「ああ、あったかい…」 目を細めながらそう言ったアゼムの頬の色に僅かに色が戻り始める。エメトセルクはアゼムの手を強く握り直した。アゼムの手が自分の手を握り返してくる感触に、安堵で深い溜息が出る。 「ふふ、やっぱり下手な回復魔法よりも、私には君のエーテルが一番効くみたいだね」 「ハァ…そんな事を言えるくらいには余裕があると言ってもいいのかもしれないな」 エメトセルクは苦笑すると、深く溜息をついた。 「何があった。詳しく話せ」 「うん、そうだね。それと、君の力を貸してほしいんだ」 ※ ※ ※ 家族のように大切にしていた魔法生物が、突然異形の魔物に変化して手に負えなくなってしまった…、そんな情報がアーモロートに入ってきたのは数日前の事だった。「お悩み相談係」の座にあるアゼムがこの手の案件に赴くのはいつも通りの事であったが、まさかその魔物が十四人委員会の中でも手練れと言われるアゼムにここまでの傷を負わせる程の脅威だったとは、誰が予測できただろうか。 そして元は魔法生物だったというその魔物がいくら危険な存在であろうと、相談の主から「家族のように大切にしてきた子なのだ」と聞いてしまえばそこはアゼムの事だ、出来るなら命を還さず元の状態にしてやる方法はないかと考えてしまって本気で戦えなかったのだろう。アゼムは懐から小さな映写機のようなイデアを取り出すと、エメトセルクに差し出した。 「これを見てくれるかい?」 そこから現れたのは、件の魔物の映像だった。アゼムが傷を負い倒れる直前に発動させたであろう強固な拘束魔法で束縛されていて身動きこそ取れていないようだが、確かに今まで見たことも無いような姿をしている。…そして、何より。 「こいつは、一体何だ…?」 「ねえ、君の目から視て妙な所は無い?なんて言ったらいいのか…、とても嫌な感じがするんだ」 アゼムの「嫌な予感」は困ったことによく当たるものだ。視点を変えてその生物を改めて確認したエメトセルクは思わず息を飲む。 …エーテルが、魂と呼べるものが、全て欠落している。物理的には異形と認識できるそれは、本来ならば既に実態が存在していない筈のモノだった。どう説明したらいいものか思惟を巡らせていたエメトセルクだったが、次に告げられたアゼムの言葉はそれ以上に衝撃的なものだった。 (小説7p)
このみ
冥王だって、たまには
フォンフォンフォン——。 通信用に持ち歩いている魔法道具の音が、洞窟内にこだまする。その持ち主であるアゼムとその仲間たちは、久方ぶりに発見された天然洞窟内部の探索に乗り込むところだった。 永い人の歴史の中で、未踏の地というものは少なくなりつつある。アゼムは既に訪れた土地を再び訪ねるのも好きだったが、未知の探索を最も好む。誰も足を踏み入れたことのない洞窟が発見された、と聞けば、飛びつかないはずがなかった。 とは言えこれは、急ぎの依頼ではない。あなたが好きそうだから、とわざわざ声を掛けてくれた友人たちに、混ぜてもらっただけのこと。星のためにもなるとはいえ、趣味の範疇と言って差し支えのない案件だった。 「あ……ごめん、少しだけ時間をもらえる?」 仲間たちが頷いたのを見てから通信を繋ぐと、聞こえてきたのは聞き慣れた親友の声。 「やあやあ、アゼム。今、時間はあるかい?」 「えーっと……とりあえず、話を聞かせてもらってもいい?」 貴重な機会をみすみす逃す手はないが、ヒュトロダエウスがわざわざ連絡してきたくらいだ。緊急事態の可能性もあり得る。 「うん、もちろんだよ!」 承諾し事情を話し出した彼の言葉に耳を傾るアゼムの眉間に、少しずつ皺が寄っていく。そして最後の一言が発された途端、彼女は目を見開いた。 「——っは、はぁ⁉」 絞り出した悲鳴に、仲間たちの視線がこちらを向いた。アゼムはぱっと口元を手で隠し、小声で叫ぶように問う。 「ど、どういうこと⁉ なんでそんな事に……」 「雑念が混じっちゃったんじゃない? キミに会いたい、とでも思っちゃったんだよ。きっとね」 呑気な声に続いて、クスクスと楽しそうな声が聞こえてくる。この人、さては楽しんでるな……⁉ 「——っ、わかった。とにかく急いで向かうから!」 朱の差した顔をそのままに、それでだけ宣言して通信を切る。顔を上げると、四対の瞳がまだこちらを向いていた。その中の一人が、心配そうに声を上げる。 「アゼム、どうかした?」 「ええと——ごめんなさい! 急用ができちゃって……。一応確認するけど、四人で人手は十分足りてるんだよね?」 「あぁ、大丈夫だ。使える魔法のバランスも、問題ない」 先ほどとは別の一人が言うと、他の三人も続いて首を縦に振った。 「良かった……じゃあ私、ちょっと行ってくるね。戻ってきても奥まで辿り着いていなければ、途中からでも私も混ぜて! 戻らなければ放っておいて大丈夫だから!」 言うが早いか、アゼムはくるりと踵を返して、陽が差し込む入り口を目指す。 「まったく、アゼム様はお忙しいな」 カラッと笑う仲間たちの声を背中で聞きつつ、暗い洞窟を飛び出した。 (小説6p)
しょくぱん
アイ・ラブ・ユー
その〝問い〟が投げ掛けられたのは、つい先程まで、恋人たちが熱い吐息を交わし合っていた寝台の上での事だった。 身を清めて、さあ眠ろうかと身を寄せたエメトセルクの腕の中で、アゼムは、まるで昨日食べた物を尋ねるかの様な調子で、ただぽつりと呟いたのだ。 「ねえハーデス。〝永久の愛〟って、あると思う?」 そんなもの、いまここに───突然の問い掛けに、そんな答えが喉元まで出かかったエメトセルクだが、流石にそれには、気恥ずかしさが勝ってしまう。何と答えたものか、考えあぐねる彼をよそに、アゼムは枕の上に流れる恋人の髪を指に巻き付けて遊んでいる。 「……どうしてそんなことを訊く?」 エメトセルクが問いを返す。アゼムは口元に手を当てて、うーん、と唸った。 「そうね。単純に気になって、かな。……ほら、〝永久の愛〟って、よく恋人同士や夫婦が誓い合ったりするじゃない。確かに素敵だし、古今東西よく言われる言葉だけど、なんだかすごく曖昧だよなぁって思うんだ」 「曖昧か……。確かに、『愛』という概念自体が簡単に定義出来るものでもないからな」 議題に乗ってもらえたのが嬉しいのか、アゼムは白い髪を弄る手を止めて、エメトセルクを真っ直ぐに見つめ返す。 「でしょう? それに『永久』、こっちはもっと厄介だよ。まず実際問題、永遠に同じものなんて本当にあるのかなって。例えば、私たちの身体にしたって、常にエーテルや栄養が代謝していて、一定ではないでしょう? 心だってそう。気分の変化もあるし、学習や経験で日々成長もしていく」 成程。これは彼女がときたま発する、純粋な好奇心からの問答であるらしい。エメトセルクは得心した。 もしこれが、エメトセルク自身の心変わりを問うているのであれば、それがどれだけ浅はかな問いであるのかを、一晩掛けてでも理解らせてやらねばなるまい、と一瞬考えた彼であった。だが、アゼムの問いは、思いの外真面目な動機から発せられている。彼はもう少し、この議題に付き合ってみることにした。 「確かに、生物である以上、人の身や心は絶えず変化している。だが、この星はどうだ? ……例えばだ。私たち人と、この星の間に結ばれた愛。これは、永い時の流れで生きる人が入れ替わっていこうとも、永遠に続くものだと考えられているが、どうだ?」 アゼムが、ばふ、と枕に手を突いて身を起こす。 「とんでもない! 星だって、どんどん環境が変化していくんだから、もっと信用ならないよ。多少の予兆はあるにせよ、いつどこで天変地異が人に牙を剥くか判らないんだし」 「ふむ……。では、このアーモロートの街の調和と平和については? これも、人々の愛の成せるものではないか?」 「うーん……確かに、アーモロートのみんなはこの街を深く愛していると思う……。でも、人の文化や、この街も、きっと永遠ではないんじゃないかな。久し振りに訪れた町が、以前とすっかり変わってるなんて事は、珍しくないもの。アーモロートだってそう。ずっとここに居るみんなにとっては、何も変わらないように感じるんだろうけど。……私はね、旅に出て戻ってくる度に、逆らえない、時の流れと変化を感じるよ」 「お前……」 エメトセルクは、返す言葉を見つけられなかった。 (小説11p)
せつな
おやすみの言葉を
元来、恋仲とは、美しい花を贈り、食事を共にし、長い夜を寄り添い、そうして愛を育む関係が一般的である。が、しかし、残念ながら我が愛しの人にそれらは一切当てはまることはない。 おかげさまで、ひとりで過ごす夜もすっかり慣れてしまった。恋人は、いまどこを放浪しているかも伺い知れない。時折、期待を胸に魂を映す瞳で街を見下ろすが、あの輝きはどこにもなかった。 雑念を振り払うように職務に没頭する。そうして、今日も気がつけばすっかり夜は深けていた。静まり返った街をひとりで歩き、自宅でゆっくりと湯に浸かる。汚れを落とすだけならば魔法でも事足りるが、 こうして温かな湯に浸かることで疲労の溜まった身体がほぐれていく。これらを実現するイデアや、湯に浸かる文化を作り上げた先人は偉大だ。あいにくと顔も名も存じ上げないが、心の底から賛美を贈りたい。 バスタブの縁に頭を預け、長く息を吐く。心地よい温もりに身を預け、ゆったりとした時を満喫しようとしたところで、バタバタと忙しない音がリビングの方から響いて来た。 瞬時に眼を切り替える……までもない。この家へ主の断りなく入れるのは、限られた人物だけだ。そもそも、こんなバカでかい音と共にやって来るのは一人しかいない。 (小説2p)
ひなせまや
クッキーと苦労人と
バーンッ! いつものように、アゼムはエメトセルクの執務室の扉をノックもせずに大げさに開けて中に入る。しかしいつもと違うのは、右手で可愛く包装された小包を持っている事だ。 「来たよー! エメトセルク!」 「今度はお前か……。あぁ厭だ。この忙しい時に厄介なのがわらわらと……」 「やぁ、アゼム」 「あ、ヒュトロダエウスもいたんだね。やっほー」 アゼムは、ワタシが主だと言わんばかりに堂々とソファに座っていたヒュトロダエウスと左手でハイタッチして盛り上がり、そのままわいわいと雑談を始める。しかしそのおしゃべりを聞いて、眉間に皺を寄せたこの部屋の本当の主が、苦言を呈す。 「お前ら、騒ぐなら外へ行け。私は忙しいんだ」 「騒ぎに来たんじゃないよ! 実は今日はね~、エメトセルクにプレゼントが……」 「いらん! 帰れ!」 「ちょっと! ちゃんと聞いてよぅ」 「どうせいつものごとく面倒事だろう? 今は相当、大変、とても仕事に満足している」 アゼムは右手に持った小包を掲げて、エメトセルクに向かって反論する。 「待って、これはね……」 しかし、エメトセルクは書類から目を離さないままアゼムに告げる。 「二度は言わないぞ」 それを聞いたアゼムは、一切話を聞かないエメトセルクに青筋を立て、右手に持った小包をエメトセルクに向かって投げる。 「エメトセルクの、バカー!」 小包は見事エメトセルクの胸に当たり、やっと顔を上げてアゼムを見た頃には、アゼムは背中を向けて部屋を出て行く所だった。 そこで、一言も発しなかったヒュトロダエウスが、見かねてエメトセルクに話し掛ける。 「キミ、いいのかい? アゼムは話があったようだったけど」 「どうせ厄介事だろう」 「そうでもないんじゃない? その包み、開いてみなよ」 エメトセルクは、ヒュトロダエウスに言われて我が身に当たってから執務机に落ちた包みを開く。 「何だ……クッキー?」 「大方プレゼントって、これの事だったんじゃないかい?」 「アゼムがクッキーなんて……」 「キミ、一年前も似たような事やったよね……? 覚えてる?」 エメトセルクは、瑠璃紺の羽を持つ創造生物から作った愛用の羽根ペンを置いて、椅子にもたれかかる。 「一年前か……覚えている……」 そして目を瞑り、一年前の出来事を頭の中で思い返す。 (小説10p)
月季
招待状
『謹啓 早春の候 皆様には益々ご清祥のこと お慶び申し上げます この度村の青年と娘の婚約が整いまして結婚式を挙げることになりました つきましては――』 はあ、と手にした紙をひらひらとさせてアゼムは重苦しくため息をつく。 いや、結婚自体は大変にめでたいことなのだ。この顔も知らぬ青年と娘の祝言をともに喜んで欲しいと第十四の座を招待する集落も好意でそれをやっている。のだけれど、 「あの集落は、毎回脅されて招待状を作ってるのかな」 ひとりぼやきながら、いやどうだろうか、村としては新郎新婦の結婚式がつつがなく執り行われ、ついでに『あいつ』の縁談が、確率自体は万が一にもないだろうけれど、無事まとまる以上にいい話なんてないのかもしれないのだから、これは逆に楽しまれている可能性は十分に、ある。 「まったくこれで十回目だし、何だかんだと三百年くらい同じ事を言われ続けてるんだけれど、そろそろ諦めてくれないものかなあ」 やれやれと溜息をつきつつ、放置すればこの青年と娘の結婚とやらが破談になる可能性もある訳で、そう考えると行かざるを得ない。今回もどうにか無事に終わってくれるといいのだけれどと再び大きくため息をつきながら、アゼムは旅の支度を整え始めるのだった。 「やあやあ、偉大なるエメトセルク。今日は何となく浮かない顔をしているね。悩みがあるのなら聞くよ」 「不要だ。今日のお前は私に用事はないはずだ、帰れ」 たまたま出会い、親友を心配しているふうを装ったヒュトロダエウスが、言外にアゼムと喧嘩でもした? と、興味津々で話しかけてくる。それを表向きはばっさりと切り捨てながらも、揺れる心の内を隠しきれていなかったことに少々苛立ちつつ、沈黙を返事としてエメトセルクは親友を装っている何かに投げ返す。 「つれないなあ。まあでも視たところ喧嘩をしたって訳ではなさそうで安心したよ」 「勝手に人の中を覗くな。相手が知人とはいえ善き市民にあるまじき行為だと思うぞ。だが、そこまで視た上で何か有効な提案があるというのなら聞いてやらんでもない」 声音と表情だけは不機嫌なままなのに、言っていることはそうでもないその、そういうところがキミなんだよねえとヒュトロダエウスは返しつつ、今しがた彼の口から放たれた言葉に何かを刺激されたのか、お腹を抱えて笑い出す。 「フフ、フフフ、しれっと知人に格下げしないでくれるかな。日々星の運営のために命を砕く偉大なる第三の座の為に、こうして心配して様子を見にやってきた最愛なる親友に対して、大変に酷い扱いだと思わないかい?」 「煩いぞ。案がないなら今度こそ帰れ。仕事が進まないだろうが」 「ごめんごめん。と言ってもキミが心配するのは星のこと以外ではアゼムのことくらいだから。そうだねえ、今回のアゼムの旅先については委員会の行先に記録されてはいない。つまり、私的な旅という訳だ。それでいて行方を追ってみたところ、未知の場所ではないことも把握している。かの地に初めて調査で赴いたのは何年前だったか。その後は何度か向かっている様子は視たけれど、初回以降はすべて任務ではない。にもかかわらずその旅の理由は当人にしか分からない。偉大なるエメトセルクの立場上、キミにすら知らされていない極秘の任務だという可能性は限りなく低い。彼女が一体かの地に何をしに行っているのか、それをハーデス個人としても彼女の口から聞かされていないということを、彼女がキミに対して秘密を持っているということそのものを不満に思っている、そういう状態な訳だ?」 そこまでほぼ一息ですらすらと喋りに喋り倒しては、ワタシの推測はどのくらい当たっているのかは分からないけれどね、と微笑んで、その上で解決案を出すとするならば、そうだねと考える様子を見せている。 (小説10p)
桜沢麗奈
レゾン・デートル
「……アゼム?」 どことも知らぬ場所へ召喚されるのが日常茶飯事のことだったので。この時も、いつものそれだと思ったのだ。 大概は喚ばれたそのすぐ側にアゼムがいて、ウインクのひとつでもよこして、今から大きな魔法を使うからわたしを護っていて、などと宣うのが常であるはずなのに。 今自分が召喚され現れたのは彼女の張った結界の内側。けれど近くにアゼムの姿はなく、辺りを見渡せば結界の外側に彼女はいた。 「アゼム!」 彼女に駆け寄ろうとしたエメトセルクを、鋭い声が制止する。 「だめ!」 危機的状況にあることは見てわかる。見たこともないようなおぞましい形状をした異形、それが巻き起こす、轟と渦を巻く混沌に拮抗するアゼムの魔力。それは今にも平衡を崩し、アゼムを飲み込みそうに見えた。 「何言ってる、おまえ……」 大剣を抜きアゼムの元へ駆けようとしたエメトセルクに、振り返ることもせぬままにアゼムが叫ぶ。 「こっちに手一杯なんだ。これ以上結界を維持できない、君がその子を護って!」 そう言われ振り返れば、背後から子どもの泣き声が聞こえる。 「ごめんなさい、ぼくのせいでアゼム様が」 泣きじゃくる子どもの、その魔力は突然変異かと思われるほどに強く。それですべてを理解する。今回の彼女の任務はその子どもの保護だった。 まだ精神が未熟な子どもが、恐怖のために作り出してしまった魑魅。強すぎる魔力は時に災厄を引き起こす。ちょうどこんなふうに。 アゼムが単身対峙するそれは、彼女の魔力をもってすら手に余る。それがわかるのに、そのそばにいて共に戦わねばならないのに、座に就く者としての理性が足を止めさせる。 身を守るすべを持たぬ子どもを護ること、それが自分の役割で、それを果たすとアゼムに信じられているからこそ、こんな状況で自分が喚ばれたのだ。 「ごめんなさい」 どうしようもない後悔に苛まれながら泣いている、その子どもを腕の中に抱き、アゼムの張った結界に魔力を注ぎこみ支える。 「大丈夫だ、おまえのせいじゃない」 そう言いながらローブの腕に抱え込み視界を塞いだ。 あの異形を顕現させたのは確かにこの子どもの魔力なのだろうが、まだ魔力の制御もできない子どもが引き起こした、こんなのはただの事故だ。この光景はまだ幼い子どもが見なくていいものだ。 巨大な異形を中心としてエーテルが渦を巻き空間を歪ませる。それに抗いながら、幾重にも重ねた魔紋の中で呪文を唱えるアゼムは、遠目でもわかるほどに酷い傷を負っていて、それでも怯むことなく、背後に稚き生命を護ろうとして立ちはだかる。 「怖い」 エメトセルクの腕の中で泣き喚く子どもの、その言葉を聞きながら思う。 怖い、とおまえは思わないのか。そんなものを前にして、血を流し生命を危険に曝しながら、恐怖に足が竦むことはないのか。 天から地から膨大な魔力がアゼムの杖に吸い上げられ、目も眩むほどに発光して太陽のフレアのように異形を包み込む。けれど消滅する最期の瞬間に、断末魔の叫びをあげるかのように、それが内側から激しく爆ぜた。 「アゼム!」 いつでも、自分が真に護っていたいのはアゼムなのに。彼女から護るべきものを腕の中に託され、手が、届かない。 眼前の景色が、暴発する轟焔に呑まれた。 (小説9p)
生姜
【僕らを飲み込んで】
爽やかな風が吹く日だった。太陽の光が新緑をやわらかく照らし、それが風に揺られている。心地のよい、そんな時間。手に持ったイデアを同じように日に透かし、その煌めきに目を細める。薄い水色がチラチラ瞬く。 試作品を試してほしいと渡されて、二つ返事で承諾した。新しいものは大好き。誰も知らないものなんて、わくわくする。好奇心の素を大切に持って、愛しいあの人のところへ行こう。 執務室に向かうと、お目当ての彼がいた。また、眉間にしわを寄せて。その原因になることがあるのは重々承知だが、今回はちがう……と思いたい。私に気づいた彼が顔を上げる。 「アゼム」 「お疲れ様、エメトセルク」 笑顔を添えて返すと、ああ、と短く返事をして、彼は職務の手を止めた。 「ひと息つこうと思っていたところだ」 「そう? じゃあお邪魔するね」 部屋に入って、勝手知ったる手つきでお茶を用意する。彼から礼の言葉をもらう。 入れたお茶を彼に渡し、自分も空いた椅子に腰かける。ひと口お茶を飲んだ彼が、それで? と私に問いかけた。 「何か用事があるのか?」 「ふふん、なんと今日は用事があります」 「用事がなくとも居座るくせに……」 そういう彼だって、どれだけ居座っても追い出しはしないくせに。小言は言うけれど。 「休憩がてら、仕事の依頼を一緒にこなしてほしいの」 「休憩? 仕事なのにか」 「うん。試してほしいイデアがあるって」 エメトセルクにそれを見せると、ほう、と彼は感嘆のため息をこぼした。 「美しいイデアだな。それで、何をするんだ」 「うん、あのね」 ちょっとだけもったいぶりながら私は告げる。秘密の場所を教えるみたいに。 「海に行こう」 (小説5p)
片桐遊奈
ぼくの居場所は君のとなり
荒れ狂う獣の咆吼が響く。大きな鳥型の生物は、自分の背丈の三倍ほどはあろうか。両の翼を広げられると更に大きく感じる。しかも、ただの鳥ではなく、一部鱗に覆われた肌があったり尻尾が三つ叉になっていたり、他の生物の特徴も混ざっている。生み出された新種の生物なのだろう。 言葉はわからずとも、怒りは伝わってきた。肌がピリピリするほどの殺気が、一身に注がれる。 その原因が何か、対話して解決できる相手ならばことは簡単だったのに。知性はそれなりにありそうだが対話までできる気はしない。何でもかんでも力でねじ伏せるのは愚かしいことだが、とはいえ、近隣の住民に被害が出てしまうのならば、『管理』するのも仕事のうち、ということになるだろう。そのあたりは、ちゃんと出かける時に話は通している。 「アゼム様!」 少し離れた物陰から、自分を呼ぶ声が聞こえる。 「大丈夫、だから安全なとこにいて!」 問題を解決するのが今の仕事。 ということで、自分がすべきことは実力行使だ。 まずは距離をとり、弓で牽制をする。一人でなんとかなればいいけれど、としばらく戦ってみるがどうにも上手くいかない。渾身の魔力を乗せて放った矢は幾度か当たれど、ついた傷は致命傷にはほど遠い。ただ大きいだけの鳥かと思いきや、予想以上に頑丈だった。 しかもそのうちに怒りが増したのか、咆哮は更に激しくなった。 ごうごうと風が舞い上がる。黒いローブの裾がはためき、フードは外れてしまった。腰まで伸びた長い金色の髪が広がり波打つ。仮面まで持って行かれないように武器を持っていない方の手で押さえた。 その次の瞬間、土煙の向こうから飛んでくる何かを察知し、アゼムは軽く身をひねった。 一瞬見えたそれは羽根だろうか、肌を掠めていく。髪が切れて散らばり頬に鋭い痛みが走った。血が流れているのも感じたが今はそれどころではない。再び目の前の獲物を見ると、周りには無数の羽根がこちらを狙っているのがわかった。 「あらー……これは一人じゃキツいかも」 アゼムは距離を取って、軽く呼吸を整える。それから素早く呪文を唱えると、眩い光が柱のようにあがり、その中から黒い人影が現れた。自分と同じ黒いローブに身を包んだ青年。 その人物はこちらを一瞥すると、大仰に溜め息をついた。 (小説6p)
咲倉由狩
とわのつづきを、こいねがう
十四人委員会、第十四の座、アゼム。その性質は、鳥に似ている。風に乗ってどこまでも羽ばたいていき、遥か海の果てまで飛び去ってしまう。風が止めば気まぐれに降り立ち、実りをもたらしてはまた空へと舞い上がる。大地からは、いくら手を伸ばしたって届きやしないのだ。 アゼムという座、それ自体がそういう人間にしか許されないものなのだろう。エメトセルクが知るのは先代であるヴェーネスと、現在のアゼムである親愛なる彼女しかいなかったが、たった二人挙げただけでも、そうだと確信できる。特に現アゼムは、幼い頃から先代に後任として育てられていたこともあり、よりその色が強い。全く、眺める人間からすれば、溜め息ばかり出る。 それでも、彼女には帰巣本能があった。どこまで遠くへ行ってしまっても、長い間姿を見せなくても。疲れ果てていても、羽根がぼろぼろに傷付いていても。アゼムは、必ず帰ってくる。エメトセルクの腕の中に。 「帰るところがあるから、旅に出られるんだよ」 人の住まない家は、結界を貼ったとて、年月とともに色を失っていく。維持するのも大変だからなぁ、などと言って、アゼムはあるとき突然、自分の家を引き払ってしまった。とうとう都市から住所も無くした、と心の中で嘆いたエメトセルクであったが、アゼムはあっさりと「だからね」と続けた。 「きみの家、一室増やすのくらい、わけないだろ? 人が住んでる家に帰るのは、実に効率的だ。きみだって許すに違いない」 エメトセルクは、ぽかんとしてしまった。それを告げたときのアゼムは、大きな荷物を背負って、エメトセルクの家のドアに片足を突っ込んでいた。無理矢理押し出して閉じてしまうことだって、物理的には不可能ではなかったのだろうけれど。いつだって、理由が必要なエメトセルクの行動を弄ぶのは、事態を起こしてから巻き込む彼女の存在だった。 「同性の友人の所にでも行ったらどうだ」 言い訳ではなく、正論である。お前と私は異性の友人だ。そう示したエメトセルクに、アゼムはにっこりと笑ってみせた。 「きみ以外のところに帰る私は、いやだろう?」 言葉に詰まった。その通りだった。エメトセルクにとってのアゼムは、友人という単語で言い表せない相手だった。その自由な生き方を愛している。なのに、正しく愛せない自分を突きつけられるのが憎たらしい。縛りたいと欠片でも願う心を認めては、らしくないと息を吐いていたのだ。 それを知られていたことも飲み込みがたく、黙り込んだエメトセルクのローブに、アゼムは手を伸ばした。 「私だって、きみの隣に帰りたい」 いつだって、厄介事ばかり運び込む相手だと知っていて。両手で引き込むことに、迷う隙だって、なかったのだ。 (小説11p)